父親の嘆き

 娘が未だ小さかった頃の 話です。
五月の連休に 女房は里に用事があって、私と娘を残して 里帰りしたことがあります。
娘は昼間は私とよく遊んでくれて、これなら3日や4日ちゃんと 留守が出来ると 安心していた矢先、 急にお腹が痛いと言い出しました。
一日目の夜から私は、殆ど寝ずに 娘の看病にかかりきりました。 この子は時々お腹の痛くなる子でしたが、まさか こんな時に出てくるとは 想いもしませんでした。

 それから二日間 私は娘の背中をさすったり、リンゴを摺り下ろして 食べさせたり、それはもう精一杯のことをしたつもりでした。
が、娘は少しも回復しませんでした。
思いあまって女房に電話し、車で2時間の里へつれて帰る事にしました。
道中も 娘はぐったりして ろくすっぽ話もできませんでした。

 里に着くなり娘は ガバッと起きて女房の所に走って行き、 「お腹空いた」と 言うではありませんか!。
手当たり次第にパクパク食べる娘を見て、私は唖然としました。
まるで この二日間何も食べさせなかったような娘の振る舞いに 私は つい 言い訳をせずにはいられませんでした。
「何を与えても いらない いらないの一点張りだったのに」と。
しかし女房はニコニコ笑いながら 「この子は神経の繊細な子だから 私の顔を見ただけで もう治っているわよ」と 平然としています。
見れば娘は 里の子供たちともう 走り回って遊んでいるでは ありませんか!

 このとき私は思いました。
俺だって親のはしくれだぞ!
仕込んだ方と 仕込まれた方の違いはあっても 親だぞ!
それでは何かい? 俺は神経性胃炎の元凶かえ?
お母さんは ちらっと見ただけで病気も治るほどの美人かえ?
俺は 月給さえ運んでいれば それ以外は要らないのかえ?
冗談じゃねえよ。 父親って 損ですねえ!!