子守歌

 娘が出産のため入院しました。
その間、私たちが孫を預かることになりました。
夫婦二人になった今となっては 又子供が出来たような気分で 毎晩孫と一緒に川の字になって 休みました。
家内が寝かせつけるときは 子守歌を歌いました。 「ねんねんころりよ おころりよ」の江戸子守歌です。
私の場合は、「むかしむかし あるところに」の 桃太郎の お話でした。
三歳の子供に、「むかしむかし」の意味も、「芝刈り」の意味も、 解らないとは思いましたが、毎晩毎晩同じ話を 飽きもせず 聞いてくれました。

 ある時、私と孫が先に布団に入ることになりました。
私は一度くらい子守歌を歌ってやろうと思い「ねんねんころりよー」と、 歌い始めました。
孫は ジッとおとなしく聞き惚れている様子でした。
しばらくして 家内も布団に入っていきました。 その途端、孫は家内の方に向き直って 「怖い」 と言いました。
家内が 「何が怖いの?」と 問いただすと、「爺ちゃんの歌が 怖い」と 言うではありませんか!
その途端 家内は 「婆ちゃんの勝ちイ」と 勝ち名乗りを上げて ご満悦でした。
そんな馬鹿な! と 私は思いました。 二人の子供も この歌で育ててきました。
なのに! なのに! この子はなんと言うことを!

 後日、私はパソコンに私の子守歌を録音して聴き直してみました。
勿論 家内の留守の間に です。
いい年をした大人が、パソコンに向かって子守歌など歌っていると  家内はきっと私を 「狂った」 と思うと案じたからです。
パソコンから再生されて 聞こえてきた私の子守歌は、 確かに 「怖かった」です。
地の底から 沸き上がってくる うめき声のようで、子供でなくても 怖い歌声でした。
孫が ジッと聞き入っていたと思ったのは、実は恐怖で縮みあがって いたのに 違いありません。 このことがあって以来 私は二度と子守歌が唄えなくなりました。 お話専門で貫くより、仕方ありません(;_;)